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百怪堂

天狗孫兵衛

天狗孫兵衛【テングマゴベエ】


◯地域

阿蘇郡南阿蘇村白川


◯概要

孫兵衛という男が、中岳麓の扇谷まで、たきもん取りに行ったときのこと。孫兵衛は身軽な男で、岩から岩へひょいひょいと飛び渡りながら、山道を登って行った。扇谷には、昔から天狗が住んでおり、その様子を上から見ていた。

天狗は「俺のように、身軽な男のいるもんだ」そう思って声をかけた。「おいおい、お前は人間だろ。そんなに身の軽い者は見たことがない」と天狗は大層感心して孫兵衛と友達になった。


ある日のこと、孫兵衛は葬式の揚げ豆腐を買いに出かけた。帰り道に仲良くなった天狗にばったりあった。「今、江戸じゃ大火事が起きている。火事と喧嘩は江戸の華という言葉があるだろ。ちょっと見ておくのも後学のためと思うのだが、あんたも一緒に行ってみるか」と天狗に誘われ、孫兵衛もその気になり、買った揚げ豆腐は松の枝に引っ掛けて、天狗に背負われ、神通力にて江戸までひとっ飛びで飛んでいった。


揚げ豆腐を買いに行った孫兵衛が、いつまでも帰らないので皆イライラしていたとこらに、澄まし顔で孫兵衛が帰ってきて、「江戸の火事はすごいぞ。ちょいと今見てきたが、あの火の具合じゃまだしばらくは収まらないよ」と言う。「何を寝ぼけた事を言ってるのだ」と村人が言うと、「本当のことだ。江戸で隣のおっさんにも会った」と返す。


何ヶ月か過ぎた頃、隣のおっさんが帰ってきて、江戸で孫兵衛に会った話をするので、村人たちは“天狗孫兵衛”と呼ぶようになった。


 

◯参考文献

高橋佳也 文・坂本福治 絵『阿蘇の昔むかし 白川の民話』建築省立野ダム工事事務所 1999年

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