黄金の鳥【オウゴンノトリ】
◯地域
阿蘇郡波野村(現・阿蘇市)
◯概要
一年の中で正月の朝一度だけ、黄金の鳥が飛んできて、ただ一声なくという。この鳥はなかなか一目につかず、この鳥を見た人は目がくらんで「めくら」になるといわれ、誰ひとり見に行こうとする人はいないという。
この鳥には次のようないわれがある。
昔、赤仁田の長者窪に村一番の長者が、大きな家を建てて、蔵をいくつも持って住んでいた。長者はいつもたくさんの人を雇い、広い畑をつくり、大儲けしていた。
使用人が多いので毎日食事の支度も大変で、かまどの捨てた灰は山をなし、今でも灰塚として残っているほどだった。
この長者は大変な金持ちだったが、ケチ臭い人で、生活に困っている人の面倒をみるでなし、村のためになる仕事もせず、ただ自分の家を大きくしたり、庭を仕立てて楽しんでいた。そのため村人たちからは嫌われていた。
この贅沢の限りをつくした長者が、黄金の茶釜(かんす)を買いに使いを出した。目も眩いばかりの茶釜を馬に乗せて、使いの人たちが轟が滝の上を通る頃は、夕暮れ近くだった。ここは今でこそ立派な橋が架けられているが、当時は小さい路が深い谷川まで下っていて、滝のすぐそばを渡るようになっていた。
ちょうど滝のそばを通ろうとしたとき、何に驚いたのか馬が鳴いて、尻をポンと蹴上げた拍子にしっかり結んであった黄金の茶釜が、コロコロと転げ落ち、とうとう滝壺に沈んでしまった。それから人を何十人も集めて、何日も探したが、とうとう見つけ出すことができなかった。
この後から、滝より下手の谷川で釣れる「あぶらめ」は金色をしているという噂がたった。
この金の「あぶらめ」は他の地では珍しくよく売れたので、魚売りのまずしい人々は次第に暮らし向きが良くなっていった。この話を聞いた長者は、心穏やかではなく「滝の下手のあぶらめをつった者は除け者にする」というおふれをだした。
ところがその夜、長者の家から火が出て、みるみるうちに、大きな家も倉も庭もみんな火の渦に巻き込まれてしまった。翌日には大きな灰の山がただひとつと、そばに着の身着のままの長者が、しょんぼりと佇んでいた。さらに長者の両目は潰れて見えなくなっていた。しばらくしてこの長者も村から姿を消してしまったという。
波野村に伝わる『長者窪』というお話です。
姿を消した長者が黄金の鳥として、飛来するようになったという理解で間違いないでしょう。話の筋としては、欲をかいたことによる黄金の祟りのように読めますが、“おふれ”に腹を立てた魚売りの誰かが火をつけたとも読み取れます。
すると、黄金の鳥は長者の怨念であり、見たものを“めくら”にするのは魚売りへの復讐なのでしょう。
人間、欲をかきすぎると碌なことはないのです。
◯参考文献
波野村教育委員会編『わたしたちの波野村』熊本県阿蘇郡波野村 1986年
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