おすみの滝【オスミノタキ】
◯地域
阿蘇町大角田(現・阿蘇市今町)
◯概要
阿蘇町内牧から一の宮町宮地へ通うバス道路の中間に大角田という小さな部落がある。ここに昔、高さ5間余り、幅2間ばかりの滝があった。現在は滝壺もだんだん浅くなって滝とは名ばかりである。「おすみの滝」といわれており、それが訛って今は「おおすみだ」と呼ばれている。
江戸幕府の末期に近いある年の5月、大勢の早乙女たちが田植歌をうたいにぎやかに田植をしていた。あたりの水田はみるみるうちに早苗が植わっていった。
そこに一人の若い武士が通りかかった。田植の乙女はこのあたりの風習に従って、植え余りの早苗をぽんと武士に投げかけた。百姓やそういう風習を知っている村人ならさっと身をかわすか、運悪く体に苗の泥をうけても苦笑いして通り過ぎるものであった。しかしこの武士はそういう風習を全然知らなかった。
おすみは今年17歳になったばかりの田舎では稀な器量の良い娘であった。たまたまこのおすみの投げた苗が武士の袴の裾にべったりと泥をうちつけてしまった。武士は怒り、村人の言い訳も、おすみが泣いて詫びるのも聞き入れず、とうとう無礼うちにしてその死体を近くの滝に投げ込んだ。
それから毎年田植歌の聞こえる頃になると、滝の音に混じって、若い女のすすり泣く声が聞こえるという。村人はこの滝で蕾のまま無慈悲な死に方をした娘を憐れんで「おすみの滝」と呼ぶようになった。
◯参考文献
『管内実態調査書.熊本編補遺』熊本県警察本部警務部教養課 1961年
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