北宮渕の白鯰【キタミヤブチノシロナマズ】
◯地域
◯概要
昔、菊池の北宮に長次郎といって、村人の信望のあつい人がいた。
ある秋の日、長次郎は近所の人々を雇って、籾摺りをした。朝早くから、人々は矢裂木(やらいぎ)に汗を流し、木臼を回していたので、夕方にはたくさんの米俵が出来上がった。
長次郎はたいそう喜び、近所の人たちに籾摺り祝いの夕飯をご馳走した。みなが帰ったあと、長次郎が1人で酒を呑んでいると、「ごめんください」と若く綺麗な娘が入ってきた。「あんたは誰だ」と尋ねると「この先の者です」という。「それで」と用件を尋ねると、お願いがあるという。「何でも良いから言ってみなさい」というと「では、申し上げます。明日この下の北宮渕に鵜の鳥をお入れになるということですが、明日までは鵜の鳥を渕には入れないでくださいませ。どうかお願いいたします」と娘は真剣な顔で頼み込んだ。
こんな娘が夜中に頼みにきたのは、よほど事情があるのだろうと、願いを聞いてやることにした。
「よし、明日までは鵜を入れないように言っておこう」というと、娘は安心した様子であった。そんな様子を見て、長次郎は残っていた小豆飯をすすめた。娘は「ご馳走になります」といって小豆飯を食べてから「くれぐれもお願いいたします」と念を押して、いずこへともなく立ち去った。
次の日も、長次郎が村人と一緒に籾摺りを始めていると、下の方で人々の声がする。昨晩の約束を思い出した長次郎は、下の渕へと急いだ。渕の岸に着くと、たくさんの村人が集まり、渕には鵜が入れられていた。しまった、と思ったがもう遅かった。
そのとき、1羽の鵜が実に大きな白なまずを咥えて水中から上がってきた。
やがて料理された白なまずの腹からは小豆飯が出てきたという。
長次郎は村人に「あれは北宮渕の主だろう。すまないことをした」と昨夜のことを話した。渕の主を殺したら村が滅びるという言い伝えがあったので、せめてもの供養のためにと、お坊さんを招き、白なまずの霊を慰めた。そして北宮の者はなまずを獲ってはならない、食べてはならないと申し合わせた。これ以降、今でも鯰を食べない。
◯参考文献
菊池市高齢者大学編著『菊池むかしむかし』図書出版青潮社 1978年
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