白鐘山の五助狐【シロガネヤマノゴスケキツネ】
◯地域
◯概要
ある日、菊池の赤星の謙蔵と伊之作が、白鐘山の山道を歩いていた。旭志村の岩本の親戚に、近所の人が亡くなったことを知らせに行くところであった。
2人が道を急いでいると、道の側の大きな茶の木の横に、大きな狐が寝ている。「白鐘山の五助狐が、ここに来て昼寝をしとるばい」と2人はそう言いながら、側を通り過ぎようとした。すると狐は2人の話声に目を覚まし、ゴスと起きたと思ったら、慌てたのかそばの水溜りの中に転げ落ち、驚いて山に逃げ去った。その様子を見て「五郎狐が驚いて逃げたばい」と笑い合い、岩本へと急いだ。
ところが、行けども行けども岩本には着かず、そうこうしているうちに辺りは薄暗くなってきた。その上、雨まで降り出してきた。2人は流石に立ち止まり、途方に暮れていると、行手に小さな明かりが見える。雨宿りをさせてもらおうと、明かりを目指して歩いていくと、そこには藁葺きの家があった。2人は家の中を覗き、「ごめんください」と声をかけた。
すると、薄暗い行灯の影から「誰かな」と白髪の爺さんが顔を上げた。そして「はいんなはり」と言う。2人は家に入り、雨宿りをさせて欲しい旨を伝えた。
爺さんは「そら難儀ばしとんなはるだろ。いっとき休んでいきなっせ。そのうち雨も降り止むばな」と言う。そこで2人は上り口に腰をかけ休ませてもらうことにした。
爺さんは奥の方から盆に茶と饅頭を乗せて持ってきて、差し出した。2人は山道を歩いてきたので腹が減っており「これはすみません」と礼を言って平らげてしまった。
お爺さんは座っている自分の背後を振り向いて「わしの家でも、ああたたちが来るちょっと前、ばあさんの死なしたところでしたたい。わしゃこの先までちょっと知らせに行ってくるけん、すまんばってんここに居てはいよ」と言って出ていった。
2人も岩本へと急いで行かねばならないのに困ったと話しながら、雨が止むのを待っていた。
すると奥の方で何かムズンムズンと動く気配がする。よく見ると死んだばあさんが動いている。2人が目を離せずにいると、今度は頭を少し持ち上げた。頭は真っ白の乱れ髪で、上り口の2人をすごい形相で睨みつけている。ゴスと飛び起きたかと思うと「ギャッ」と大声で鳴き飛び掛かってきた。
2人は驚き「ワアー、お助け!」と悲鳴を上げ、表へ飛び出すも、ちょうどそこは水溜りで2人は落ちてしまった。水溜りから横の道に這い上がって、空を見ると太陽がカンカンに照っていた。
全ては白鐘山の五助狐の仕業であった。この五助狐は、普段はあまり人に悪さはしないが、昼寝の邪魔をされたので腹を立て2人を騙したのだろう。
謙蔵も伊之作も、あとで考えると、あの茶も饅頭も変な味がしていた様に思うと言う。恐らく、茶は馬の小便で饅頭は馬糞だったのだろう。
◯参考文献
菊池市高齢者大学編著『菊池むかしむかし』図書出版青潮社 1978年
Commenti