行人様の祟り【ギョウニンサマノタタリ】
◯地域
◯概要
昔、本村の山の頂上に行者が居た。この行者の行は蟻の行といって、蟻のたかった中に座って心身を鍛錬するのであったという。
それからこの山の麓に「金兵衛」「喜右衛門」という兄弟の猟師がいた。
ある日、この兄弟がこの山に登って、行者のところに立ち寄りお茶を一杯所望した。行者は快くもてなし、「さて此処は山上で何もないからちょっと待ってくれ、港(向こうの島原町)まで行ってお茶を買って来るから」と一本歯の下駄を履くと、すぐ空中を矢の様に島原の方へ飛んでいった。
2人の兄弟は「港まで買物に行くという程だから、余程金を持っているに違いない。帰ってきたら奪い取ってやろう」と相談が纏まったところに、行者がひらりと降りて来たて、大変なご馳走を出した。兄弟はそれを見ていよいよ大金持ちに違いないと確信して、早速脅迫にかかった。行者は驚き「いや自分は行者の身であるから、何も持っていない。ただこんなことの出来るのは、今まで行を積んだお陰である」と弁解しても、兄弟は聞かず「嘘を言え、出さなければ殺す」と詰め寄った。行者は「自分の修行もあと3日で終わる。その後はなんでも思い通りに出来るのだから、永久に2人を護ってやるから」と嘆願した。しかし2人は確実性のない未来よりも、現在を手中に納める方を選んだ。
そして、どうしても自分達の要求に応じない行者を遂に殺してしまった。行者は死の間際「お前達の家には永久におれが祟ってくれるぞ」と呪った。それから兄弟の家には、代々不具者が生まれるという。またその山は「行人山」と言って頂上には行人を祀り、一本歯の下駄が沢山あげてあるという。
◯参考文献
濱田隆一『天草島民俗誌』郷土研究社 1932年
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