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狐の化月

  • 百怪堂
  • 2024年6月10日
  • 読了時間: 2分

狐の化月【キツネノバケヅキ】


◯地域

阿蘇郡一の宮町(現・阿蘇市一の宮町)


◯概要

宮地古神の国道を西へ行くと大きな榎がある。

自然に恵まれた阿蘇には美しい月が出るが、この古神は月の眺めが素晴らしい。大きな枝を大空に張った榎の間から眺める月はとりわけ有名であった。宮地の人たちは、ここへやってきて月を眺め、一日の疲れを癒し、明日の希望に楽しい一夜を送るのであった。


ここの月は変わっていて、雨の降る夜でも雪の日でもどんな雲の夜でも、この木の下で眺めれば煌々と美しい光を放っている。実はこの月は狐の作ったものであった。

重く雲のかかった晩のこと、本当の月は雲に隠れていたが、狐は例によって月見の枝を出して通る人々を驚かす心算であった。


1人の旅人が滝室坂を越えて、この榎を通りかかった。月見の枝越しに月を眺め素晴らしい狐の月を賞していた。ところが、このとき本当の月が雲間から現れたので、2つの月を眺めた男は驚いてしまった。

狐は、そのことに気が付いて慌てて自分の月を引っ込めてしまった。それを見た男は「今隠れた月は本当に美しかったな」とつぶやいた。狐は嬉しくなって消えた月をまた出したので、男は気味悪くなって大急ぎで逃げ出したという。


それから幾月か経ったある晩のこと、多くの雲がかかっていた。狐はもちろんこの夜の枝ぶりも美しく、月を片手に通る人を待っていると、ある男が来た。この男は古神の月の真相を知っていた。男は月を見てこう言った


「おや、月はこんなに昇っちゃいないはずだぞ」


狐はびっくりして下の方に下げた。


「いや、そんなに下がっちゃいない。もっと下の方だ」


狐はちょっと上げる。


「もっと右の方じゃないかな」


狐は南の方へ月を持って行く。

男は最後に言った。


「もう1本枝があったはずじゃが」


狐は何考える暇もなく枝を出してしまった。片手が月、片手が枝で、支えるものがなくなりでんと木から落ちてしまった。


◯参考文献

『管内実態調査書.阿蘇編』熊本県警察本部警務部教養課 1959年

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