蜘蛛女房【クモニョウボ】
◯地域
阿蘇のある村
◯概要
阿蘇のある村に、とにかくケチな男がいた。年頃になったので、親戚達もそろそろ嫁をもらったらどうかと勧めるが「嫁をもらったら、飯を食わせないといけない。馬鹿らしい話だ。飯を食わない女がおるなら、もらってみても良いよ」と言ってハハハハと笑っている。
ある日のこと、それは美しい女が訪ねてきて「あなたのお嫁さんにしてください。私は、飯を食いません。野良仕事でも、家のことでも、精一杯頑張ります。お願いです。お嫁さんにしてください」と言う。男は本気にしなかったが、あんまり言うので、嫁にした。確かに、飯も食わないし、なんでも頑張流ので男は不思議に思っていた。
ある日のこと、何気に米びつを覗いてみると、飯をいっぱい入れていたはずが、ごっそり減っている。やはり知らないうちに飯を食っているなと、そう思って、「わしは今から泊まりがけで、隣村まで出かけてくるから、留守を頼むよ。」とそういうと、出かけるフリをした。
男はそっと家の裏手に回って、嫁の様子を伺っていた。しばらく見ていたが、変わったこともない。続いて天井裏に這い上がって下を見張った。
やがて嫁は、大きな釜にいっぱい飯を炊いて、人の頭ほどの握り飯を作った。
嫁が髪の元結を解くと、いつのまにか、大きな蜘蛛の姿に変わっている。頭の上に開いた大きな口で、投げ上げた握飯を受け止めると、かぶりついた。男が驚き、思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
蜘蛛は男に気がついたらしく、天井を見上げ、ゴソゴソと這い上がり、「あんた見たのね。わたしの姿。もう少し生かしとこうと思ったが、仕方がない。命はもらった」と言いながら飛び掛かってきた。
男は天井から転がり落ちるようにして逃げ出した。蜘蛛はどんどん追いかけてくる。男は川岸ほ菖蒲の中に逃げ込んだ。
蜘蛛は男が隠れた菖蒲が原にやって来て「そんなとこに隠れても、すぐわかるからね」そう言いながら、男が隠れる菖蒲の間に入ってきた。蜘蛛は長い足で男を抑えると、大きな口を開けて食おうとしたその時、菖蒲の硬くて尖った葉先が、大蜘蛛の目に突き刺さった。
目の見えなくなった蜘蛛は、川に流されて死んでしまったという。
5月の節句のときに軒に菖蒲を刺すのは魔除けの意味があるという。
食わず女房系の異類婚姻譚です。
◯参考文献
高橋佳也 文・坂本福治 絵『阿蘇の昔むかし 白川の民話』建築省立野ダム工事事務所 1999年
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