製鉄蟹【セイテツガ二】
◯地域
◯概要
鍛冶屋(梶屋のことか?)の小畑に白い岩水の湧く溜りがあって、その水で鍛えた刀は、素晴らしい切れ味を示し名刀を生むというので、その付近には刀鍛冶が多く棲みついていた。村では鍛治屋敷と呼んだ。
その中でも、刀鍛冶の弥作は名の知れた刀工として腕を誇っていたが、生来の癇癪持ちの上に職人肌の気難しさを持っていた。
ある日の事、癇癪が起こって喚き散らすので妻のおエツが「あんたそぎゃん、いつも喚き散らすけん、村ん人たちが、弥作が腹かきゃ(怒ったら)村んもんも腹かく。弥作もはってく(行ってしまう)。」というと、弥作は「おエツ、そら言うちくるならそら言うな。そらー時の虫たい」と言った。
弥作や他の鍛冶工たちは職人気質が災いして、いつも生活は苦しかった。それで女房が愚痴を言う「仕ごつぁいっちょんせんで(仕事は全くしないで)、今日の米ん代りゃどぎゃんするね(どうするの)」と言ってわめくので、「すんなら、こっでん持って行け」といって手製の鉄の蟹をやった。
流石名人弥作が鍛えて作った蟹だったので、その蟹は付近をガサガサと這いまわった。しかし興奮している女房はその見境もなく「こぎゃんもんが何になる」と言って投げ返したところ、亭主も虫の居所が悪かったらしく「なんにもならんか、すんなら」と言うより早く傍にあった金槌で、打ち壊してしまった。ところが、その蟹は鍛冶の精であったようで、以来鍛治屋敷は衰退するばかりで、一人も鍛冶工が居なくなった。
◯参考文献
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