長者の祟り【チョウジャノタタリ】
◯地域
◯概要
昔、樋島が大飢饉で非常に苦しんだことがあった。そのとき、多くの金を海向こうの田浦の長者に融通してもらった。ところが、幾年経っても返済しない。田浦の長者はいよいよ厳しく催促してきた。
しばらくして、どれほど催促しても応じなかった樋島の方から、使いが来て、「金を返すから取りに来てくれ」と言うので、田浦の長者は喜んで島に渡った。長者が島に着くと、村中の人は手はず通り山の上へと案内した。そこは田浦の方まで一面見渡すことのできる場所で、すぐ下は絶壁である。
そこで、宴会が始まり、皆が浮かれて舞い唄う。長者までよろよろと踊り出した。そのとき、1人の男が長者を絶壁の下に突き落とした。これが策略だったのである。「残念!覚えていろ。おれがお前どもの村は火事で焼いてしまってくれるから!」
長者のこの呪いの言葉によって、それ以降、樋島は毎年火事に見舞われる。そして不思議なことに、他の家はほとんど類火の厄に遭うが、ただ1軒いつも難を免れる家がある。これは例の長者謀殺の評議にて、「そんな道ならぬことは加わらぬ」と言って加担しなかった男の家であった。
樋の島は、本当は火の島の意味である。
◯参考文献
濱田隆一『天草島民俗誌』郷土研究社 1932年
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