鼻欠け地蔵【ハナカケジゾウ】
◯地域
◯概要
佐伊津村の隅田川に沿って上ること7、8町で、田に面した少し高みに延命地蔵堂がある。諸願霊験あらざるなしと、人々の信仰は実に厚く、その灼然(いやちこ)な事は遠く海を越えて島原までも及ぶという。
人々は、ここの地蔵を延命地蔵とは呼ばず“えごち様”と呼ぶ。そしてこの地蔵は鼻が欠けている。
ある年、田植えも済んでしまった後、悪天候続きで田の水が不足を告げ、百姓たちの水ばかい(水争い)が始まった。夜中、人が寝静まってる時にこっそり田に出掛けて、自分の田に水を引き入れるのである。
ところが不思議な事に、翌朝行ってみると、夜中に苦心して自分の田の方に引いておいた水が、すっかり乾いており、地蔵堂の田にばかり有り余るほど溜まっている。これが毎度続くので、ある晩、一人の百姓が、この不埒な悪戯者を捕らえてやろうと、物陰に隠れて窺っていた。
すると、上のお堂のところから、二尺(約60センチ)の小僧がスタスタと降りて来た。そして諸方の田の水口をみな堰き止め、地蔵様の田の方へ水口を開けている。百姓は「おのれ面憎いこの小坊主」と飛びかかるとすらりと身をかわされた。百姓はこの田の泥を取って投げ掛けたが、その間に小僧は堂の方へ逃げてしまった。ついぞ、小僧が何者なのか分からなかった。
さて翌日、また田に出た。しばらく休息しようと堂の縁に腰掛けて、ふと地蔵尊の方を見ると、身体が泥だらけになっている。さては昨夜の小僧は此奴だったかと、腰の鎌を取って地蔵の鼻を削ぎ落とした。それから、その百姓は黒焦げになって死んでしまったという。
一説には、水を地蔵田の方へ入れている時に、いきなり鎌で斬りつけると、堂の方へ逃げ込んだ。翌日、地蔵が怪しいと思って行ってみると、地蔵尊は泥だらけで鼻が切り落とされていたという。
この一連の事があってから、ますます“えごち様”の評判は高くなった。
また百姓の子孫は今もそこに住んでいるという噂である。
百姓VS地蔵です。鼻を削ぎ落とされた地蔵は百姓を黒焦げにして殺すという、半沢直樹も驚きの倍返しです。
◯参考文献
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