九頭龍の蛇【クズリュウノヘビ】
◯掲載誌
『真言伝』
◯地域
◯概要
古い時代、阿蘇近郷の人々は、阿蘇山中岳の噴火口を”神霊池”と名付けた。その中には更に3つの池があって、それぞれを”健磐龍命”、”健磐龍命の妃”、”彦御子”、と神の名をつけて信仰の対象とした。
『阿蘇宮縁起』では、3つの神霊池は、昔は満々と水をたたえ、大旱魃の時も、長雨の時も少しの増服もなかった。ある時、山上に火が燃え上がって、水は涸れ、黒煙上げ、硫黄の砂を四方に降らし、池は激しく鳴動し、泥水は沸騰して山下に流れた。その他にも数々の霊異があったと記されている。この神霊池には、竜神が住んでいるという伝説は、仏教信仰の中でも語られる。
『真言伝』という仏書では、昔、越後(新潟県)の泰澄法師という旅僧が、行脚の途中、阿蘇神社に参詣して法念誦していると、九頭竜の大蛇が現れた。これを見た泰澄は怒って「畜龍の身をもって、この聖なる霊地を吾がもの顔に領するとは何事か!」と念珠を高く掲げて叱呵した。すると龍の姿は忽ち金色の千手千眼観音のお姿となって、池上に示現したという記述が残る。
後に、阿蘇大明神の本地を千手(あるいは十一面)観音としたのは、子の為かどうかは明らかではないが、異説には”神霊池”の神は、八大龍王の一神である「和修吉龍王」の来現だとし、また神武天皇の兄が天竺に生まれ変わった”青龍神”だという諸説が語り継がれている。
阿蘇大明神の本地仏にまつわる話でもありますが、九頭を待つ龍を「畜竜」呼ばわりする泰澄の肝の据わりっぷりには閉口します。
◯参考文献
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