馬盗賊の大蛸【ウマトウゾクノオオダコ】
◯地域
天草郡佐伊津村(現・天草市佐伊津町)
◯概要
昔、佐伊津の浜には多くの馬が放し飼いにされていた。ところが人知れず馬の数が段々減っていくことに気がついた。何者が盗むのかと、番人の若者は絶えず注意していた。
すると、ある日番人は不思議な光景を目にした。今、自分の立っている岬の下で、1頭の馬がザブザブと海の中で騒いでいる。水を浴びる様子には思えず、よく見ると、素晴らしい大蛸が馬に巻きついている。あれあれと見ているうちに大蛸は馬を海の中に引きずり込んでしまった。
馬盗賊は分かったので、村人はこの大蛸をどう退治しようかと研究をした。ある知恵者の提案により、金で馬を拵えて、その馬の腹の中に炭火をおこして岬の上に立てた。
大蛸は今日も1頭の馬を獲ろうと頭を上げて見ると、今まで見たことのない逞しい赤毛の馬が見えた。あれを獲ろうと、這い上がり、馬の油断を見すました。そして一気に8本の足で飛びかかったが、たちまち自分が赤々とただれて死んだという。
その岬は、それ以降“金馬岬”と言うようになった。
◯参考文献
濱田隆一『天草島民俗誌』郷土研究社 1932年
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