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源四郎狐

源四郎狐【ゲンシロウキツネ】


◯地域


◯概要

昔、松山ン原に源四郎狐が棲んでおり、美し女子に化けたり、馬糞の饅頭を食わせたりと人を良く騙していた。村人もこれには皆迷惑していた。

ある時、松山ン原付近の村の知恵者の男が、「狐のくせに人間ばだまくらかすとは、けしからん。よし俺が狐と知恵比べばしてどっちが優れとるか確かめて、懲らしめてやろうばな」と、夕方から1人で松山ン原に出掛けた。

この頃の松山ン原は、原っぱに萱が生茂って所々に大木が薄暗い程茂った淋しいところであった。

知恵者の男は、途中で子犬を1匹懐中に隠して、峠の方へ向かった。

すると、案の定、峠の途中で若い女子が出てきた。最初は驚いたが、暗闇にはっきりと姿が見える時には狐が化けたものだという事を知っている知恵者の男は、その若い女子とすれ違い様に、懐から子犬を掴み出し、ワンワン鳴く子犬をその女子めがけて投げつけた。

すると女子は、何様奇妙な声を上げて、尻尾を出し七転八倒して一目散に逃げて行った。

それから2、3日して、まだ夜もようよう明けたばかりの頃。

「父ちゃん、父ちゃん、早う起きてみなっせ、ううごつ、ううごつ(大事、大事)」

知恵者の女房が外から喚くので

「こぎゃん早うかる何ば騒動しよっとか」

と難癖つけて起きると

「何もかもなか、早う畑に行ってみなはりまっせ」

と妻が言う。

裏の畑に行ってみると、大事な畑に大量の小石が入っていた。

(これは源四郎狐に悪さをしたけん、仇討ちばしよっとばい)と感づいた。

源四郎狐の事だから、困った顔をどからが眺めて喜んでいるかもしれないと考え、急に大きい声で

「こぎゃん、うんと石ば持ってきてもろうち、ありがちゃアこったい。大変だったろうな。昔から石越え3年て言うてあるけん、こらァ今年は豊年間違いなかばい。誰が仕事か知らんばってん有難かこったい。まあだまだ、どしこでん持ってきてくるると有難かばってん、こるが馬ン糞どん入れてあるなら、畑に虫の湧いて大迷惑するはずじゃった。石で良かった」

と喚いた。

それから4、5日して、また朝から女房が喚くので畑に行ってみると、今度は石を全部拾い上げて、その後に、馬の糞を途方もなく畑に入れてあった。この様子に知恵者の男と女房は朝から大笑いしたという。

しかし、後から少し気になって、隈府の町に行った帰りに饅頭を買って、松山ン原に行き、源四郎狐が棲家を訪ねた。

丁度その頃、穴の前で子狐が2、3匹遊んでいたので、そっと饅頭を投入れて帰った。

子狐がその饅頭を食おうとすると、源四郎狐はそれを見て

「そらあ食うこつぁーならん。俺ば騙した性悪の人間じゃけん、どぎゃんとば食わせらるるか分からん。決して食うな。」

とキツく子狐に言ったという。


現在も松山原稲荷神社がある。大正の頃までは、町の芸者衆の信仰を集め、また近郊近在から老若男女ご願い事や尋ね事などに参詣に来てきたという。正一位源九郎大明神を祀る。源四郎狐と源九郎狐の関係は誰も知らないという。


 

◯参考文献

菊池市高齢者大学編著『菊池むかしむかし』図書出版青潮社 1978年

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