猫屋敷【ネコヤシキ】
◯地域
◯概要
今の大分県直入郡のある村に、びんつけ屋(頭髪用の油壷)を営む行商人の男がいた。
ある年、行商の帰りに根子岳の麓から阿蘇町に抜ける途中、とっぷりと日が暮れてしまった。困ったナと思っていると、根子岳の山手から何やら人の声がするので、登って行っくと大きな門構えの屋敷があった。男は一晩泊めてもらおうと思い、家の中に入って声を掛けた。
すると、一人の女が出てきて「何の御用ですか」と尋ねた。男は「日が暮れて難渋しているので松明を貸してください」と言った。女は頷いて奥に入ったきり出てくる様子はない。再び声を掛けると、別の女が出てきてまた「何の御用ですか」という。今度は、「道に迷って腹が空いて困っているので、食べ物を恵んで下さい」と願った。女は快く「しばらくお待ちください」と言って「その間にお風呂でもいかがですか」と風呂場を教えて、この女も奥へと入っていった。
そこに四十ぐらいの女が通りかかり、驚いたような顔をして「私はあなたを良く知っています。こんなところにどうして来たのですか」と尋ねた。男は見たことの無い女の人だがと思いながら、ありのままを話した。
すると女は急に低い声で「これは内密の話ですよ、いいですね、実はここは人間の来るところではありません。この家は猫のいる家ですから、早く門から出て山を降りなさい」と言った。男は半信半疑で、「今腹が減って一歩も歩けないのでおにぎりなど」というと、再び女は「ここでものを食べたり、風呂に入ったりしますと、貴方は再び人間には戻れませんよ」といった。
これを聞いた男は「どうしてですか」と頻りに尋ねた。女は「人間に話すことではないのですが、私は昔貴方の隣家で飼われていた猫です。五年前にこの猫の家に来たのです。貴方はその折大変可愛がってもらった恩があるので話します。この家で物を食べたり風呂に入りますと、体に毛が生えて猫になってこの家の使い猫になります。この事は決して他の人間に話してはなりません。」という。世にも恐ろしい話を聞いた男は一目散に門から麓の方へ逃げ出した。
ところが間もなく、後から若い二、三人の女が湯桶をもって追いかけてくるのを見た男は、夢中で逃げた。背中の方から「投げよ、投げよ」という声が聞こえた。「投げた」という声と同時に、湯水が飛んできて男の耳の下に僅かに掛っただけで済んだ。
やがて男は阿蘇町に出て無事に村に帰ることができたが、男はあの時の女の話を思い出し、隣りの家に言って猫のいなくなった日を尋ねると、女の話と寸分違わなかった。
その後、女から湯を掛けられた耳の下と、脛から毛が生えて恐ろしい姿になった。その毛の話をつい叔父ととある人に喋ってしまったところ、女の言ったとおり男は死んでしまった。
ジブリの某作品を想起させるお話です。
今回は、男が一連の出来事を話して最終的には死んでしまうというオチがつきますが、『まんが日本むかし話』では男が死なないパターンの話もあるようです。下記の『まんが日本昔ばなしデータベース』に「猫岳の猫」というタイトルで記載があります。
こちらも是非
『まんが日本昔ばなしデータベース』「猫岳の猫」
◯参考文献
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